新型コロナウイルス感染症のワクチンは、国内外で開発が進められています。現時点では国内で薬事承認された新型コロナウイルス感染症のワクチンは存在せず、ワクチンの開発には一般に年単位の時間がかかりますが、厚生労働省では、できるだけ早期にワクチンを実用化し皆様にお届けできるよう取り組んでいます。
計算上は、BNT162b2接種群でCOVID-19を発症したのは8例以下にとどまり、プラセボ接種群では発症したのは86例以上になったということになる(図1)。ただし、プラセボ接種群とBNT162b2接種群のそれぞれで、COVID-19を発症した正確な被験者数は現時点で明らかになっていない。また、それぞれの接種群でCOVID-19を発症した被験者の重症度などは全く分かっていない。さらに言えば、BNT162b2の接種によって誘導される免疫が、どのくらい長く続くかもまだ分からない。
世界保健機関(WHO)は、2020年4月末、COVID-19のワクチンに求められる望ましい有効性として「少なくとも70%」、「最低でも50%以上」との見解を示している。米食品医薬品局(FDA)も、COVID-19のワクチンの指針で、50%以上の有効性を求めている。少なくとも、今回示された「90%を超える有効性」は、そうした基準を満たすものと考えられる。
ただし今後、承認が行われたり、最終解析が行われたりするまでには、BNT162b2接種群でもプラセボ接種群でも、より多くの被験者がCOVID-19を発症することになる。その結果、BNT162b2接種群で発症した被験者とプラセボ接種群で発症した被験者の数によっては、有効性が90%より大幅に低くなる可能性もある。また、抗体依存性感染増強(ADE)やワクチン関連の呼吸器疾患増強(vaccine-associated enhanced respiratory disease:VAERD)も含め、安全性の新たなデータが出てくる可能性もあるだろう。
Pfizer社とBioNTech社は、今後も引き続き第3相臨床試験の被験者登録を進める計画だ。また、安全性と有効性の情報を収集し、安全性のマイルストーンを達成した上で、11月第3週以降に緊急使用許可(EUA)の取得に向け、FDAに申請したい考え。また、2回目の接種から7日後以降にCOVID-19を発症した症例が164例に達した時点で、第3相臨床試験の最終解析を実施する計画だ。その際は、2回目の接種から7日後以降の発症予防効果だけでなく、接種から14日後以降の発症予防効果、COVID-19の重症化の予防効果、SARS-CoV-2の感染予防効果についても評価する。過去に感染歴が無い被験者だけでなく、感染歴のある被験者を含めた形での解析も実施する。
Pfizer社とBioNTech社は、2020年内にBNT162b2を5000万回分、2021年までにBNT162b2を13億回分製造し、グローバルに供給する計画だ。うち、1億2000万回分は、2021年6月までに日本へ供給することで日本政府と合意している。ただ、BNT162b2は超低温での管理が必要となり、-60℃から-80℃程度で輸送したり、保存したりすることが必要になるとみられる。日本を含め、世界中でどのような体制で供給するのかが実用化への課題になりそうだ。
また、どのようなワクチンであっても、第3相臨床試験までに把握できる有効性や安全性の知見は限られている。そのため承認後に大規模な接種が行われれば、ワクチンとの因果関係があるかどうかにかかわらず、一定の有害事象が起きる可能性は高まる。
BNT162b2は、融合前の安定化したスパイク蛋白質遺伝子をコードした自己増殖性のmRNAを、脂質ナノ粒子に封入したmRNAワクチンだ。投与後、mRNAから融合前の安定化したスパイク蛋白質が発現し、SARS-CoV-2への免疫を誘導する機序を持つ。