新型コロナウイルス感染症のワクチンは、国内外で開発が進められています。現時点では国内で薬事承認された新型コロナウイルス感染症のワクチンは存在せず、ワクチンの開発には一般に年単位の時間がかかりますが、厚生労働省では、できるだけ早期にワクチンを実用化し皆様にお届けできるよう取り組んでいます。
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抗IL-6受容体抗体
スイス・ロシュはこれまで、中外製薬が創製した抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(製品名「アクテムラ」)の新型コロナウイルスを対象とした2つのP3試験の結果を発表。米国、カナダ、欧州などで行われた試験では有効性を示すことができませんでしたが、9月18日に発表したもう1つの試験(米国、南アフリカ、ケニア、ブラジル、メキシコ、ペルーで実施)では、標準的な治療だけを受けた患者に比べて、人工呼吸器着用または死亡に至る確率を44%有意に低減しました。死亡率に統計学的な差はありませんでしたが、ロシュは同試験の結果を各国の規制当局と共有するとしています。
ロシュはほかにもトシリズマブの臨床試験を行っており、レムデシビルとの併用療法でP3試験が走っているほか、日本では中外製薬が重症患者を対象にP3試験を行っています。
米リジェネロン・ファーマシューティカルズと仏サノフィも、共同開発した抗IL-6受容体抗体サリルマブ(同「ケブザラ」)の臨床試験を行っていましたが、リジェネロン主導で行われた米国P3試験は有効性を示せず中止に。サノフィ主導で行われた米国外での試験(日本も含む)も主要評価項目を満たすことができず、サノフィは9月1日に試験を打ち切ったと発表しました。
JAK阻害薬
JAK阻害薬では、関節リウマチ治療薬バリシチニブ(米イーライリリーの「オルミエント」)が米NIAID主導のアダプティブデザイン試験の一部としてレムデシビルとの併用療法に関する国際共同臨床試験を実施。6月からは、リリー主導で単剤療法のP3試験も行われています。
リリーは9月14日、バリシチニブとレムデシビルを併用した場合、レムデシビル単独の治療に比べて回復までの時間を約1日短縮し、主要評価項目を達成したと発表。米FDAは11月19日、この試験結果をもとに、バリシチニブとレムデシビルの併用療法を2歳以上の小児と成人の中等症・重症患者に対する治療法として緊急使用許可を出しました。
その他
エーザイは、かつて重症敗血症を対象に開発していたものの、P3試験で主要評価項目を達成できずに開発を中止したTLR4拮抗薬エリトランの臨床試験を開始。試験は、Global Coalition for Adaptive Researchによる国際共同治験「REMAP-COVID」として行われ、米国で開始したあと、日本を含むグローバルへと拡大する予定です。エリトランは、サイトカイン産生の最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害する薬剤で、サイトカインストームの抑制を狙います。
イーライリリーは、がんなどを対象に開発中の抗アンジオポエチン2(Ang2)抗体LY3127804について、ARDSを発症するリスクの高いCOVID-19入院患者を対象とするP2試験を開始。Ang2はARDSを呈する患者で増加することがわかっており、試験ではAng2を阻害することでARDSの発症や人工呼吸器の使用を減らせるかどうかを検証しています。
英アストラゼネカは海外で白血病治療薬として承認されているBTK(ブルトン型キナーゼ)阻害薬アカラブルチニブの臨床試験を実施中。このほかにも、糖尿病治療薬のSGLT-2阻害薬ダパグリフロジン(製品名「フォシーガ」)について、米セントルーク・ミッドアメリカ・ハートインスティチュートと臓器不全などの重度の合併症を発症する危険性のある患者を対象としたP3試験を行っています。
武田薬品工業と米アッヴィ、米アムジェンは8月3日から、武田の遺伝性血管性浮腫治療薬イカチバント(製品名「フィラジル」)とアムジェンの乾癬治療薬アプレミラスト(同「オテズラ)、アッヴィが非アルコール性脂肪肝炎などを対象に開発中のcenicrivirocの3つの薬剤について、重症入院患者を対象とした臨床試験を始めました。
新規抗ウイルス薬の開発
既存薬を転用するアプローチで治療薬の開発が進む一方で、新規の薬剤を開発しようとする動きも広がっています。